• TOP
  • 判例研究

請求項の文言解釈につき地裁と高裁で判断が分かれた事例(平成25年(ネ)10007号)について

請求項の文言解釈につき地裁と高裁で判断が分かれた事例(平成25年(ネ)10007号)について

 

攪拌造粒装置事件

 

【1】本件事件
平成 25年 (ネ) 10007号 不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴人  株式会社パウレック (本件特許権者:粉体機械装置の開発・製造・販売)
被控訴人 亘立工業株式会社    (板金加工業)
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/06/26
主文 1 控訴人の本件控訴及び当審における拡張請求に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は、控訴人に対し、955万4462円及びこれに対する平成23年3月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人のその余の請求(当審における拡張部分を含む。)をいずれも棄却する。
2 (以降、省略)
 
【2】本件事件の概要
本件は、「攪拌造粒装置」とする特許権を有する控訴人が、被控訴人に対して特許権侵害に基づく差止め及び損害賠償を求めたのに対して、特許権侵害を認めなかった原審判決を覆し知財高裁で文言侵害を認めた事案です。
なお、控訴人は設計図面に係る著作権侵害、営業秘密の不正開示による不正競争防止法違反、及び秘密保持契約義務違反に基づく損害賠償等も請求しましたが何れも認められず、高裁でも原審が維持されましたので省略します。

 

【3】本件特許の出願経過および事件の経過
昭和53年ごろ     特許権者から被告へ製品の製作委託
昭和54年ごろ          攪拌造粒機の主要部分の製作委託
平成 3年 6月25日 特許出願(特願平3-152702)
(拒絶理由通知なし)
平成13年 3月2日  登録
平成16年 7月1日   原告(パウレック)と被告(亘立工業)で取引基本契約
平成21年 8月31日 原告と被告の取引関係終了
平成21年 9月30日 被告はフロイントから攪拌造粒機の製造委託を受ける
平成22年 6月    フロイントは展示会に出展
平成23年 4月    フロイントは製品を1台販売
平成23年 6月25日 特許権消滅

 

【4】争点
争点1-1 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか
争点1-2 本件特許は無効審判により無効にされるべきものかどうか(高裁のみ)

(以下の争点については、原告の主張を認めなかった原審を維持)
争点2-1 原告製品図面の著作物性
争点2-2 原告製品図面の複製権又は翻案権侵害の有無
争点3-1 営業秘密性(不競法2条1項7号該当性)
争点3-2 開示又は使用の有無
争点4   本件基本契約上の秘密保持義務違反

(以下の争点については特許権に基づく損害賠償を認める)
争点5   原告の損害

 

【5】本件発明について
【5-1】特許請求の範囲の記載
【請求項1】 
A 処理容器(1)内に配置した回転部材(4)に、
B 回転方向が下り勾配となるよう傾斜している攪拌羽根(5)を放射状に複数枚装着し、
C この回転部材(4)の回転で処理容器(1)内に供給された粉粒体の攪拌、造粒を行なう攪拌造粒装置において、
D 上記攪拌羽根(5)の先端部(A)を基端部(B)に対して回転方向に先行させたことを特徴とする攪拌造粒装

 

                【図1】                

 

【5-2】明細書の記載
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記攪拌造粒装置においては、回転部材の回転に伴って粉粒体には遠心力が作用するから、この遠心力で粉粒体は半径方向に移動して処理容器内側面に衝突する。ところで、上記造粒工程では、液体の結合剤を添加していることから、原料粉体は常時湿潤しており、このような湿潤した粉粒体が処理容器内側面に衝突すると、粉粒体は上昇せずに壁面に固着し、これが繰り返されて処理容器(1)内側面に層状の固着物が構成されてしまう。この時、図6に示すように、処理容器(1)内側面と、攪拌羽根(10)の前端縁との間の角度(α)は、90°より小さいことから、上記層状の固着物は、攪拌羽根(10)の先端部分で内側面に押しつけられる形になり、このことから固着物がさらに強力に処理容器(1)内側面に固着してしまう。

【0011】
【作用】上記構成により、処理容器内側面と先端部の前端縁との間の角度は90°より大きくなる。従って、先端部の外周面が、処理容器内側面に生成された固着物を削り落とす作用を呈するようになる。また、遠心力を受けて円周方向に移動した粒子は、攪拌羽根の先端部に案内されて円滑に上昇推進力を与えられ、処理容器内側面に衝突せずに上昇する。従って、処理容器内側面上での固着物の生成量が減少する。

【0014】
この結果,処理容器(1)内側面と先端部(A) の前端縁との間の角度(β)は90°よりも大きくなる(β>90°)。尚, この時の先端部(A)と先行させてない攪拌羽根(5)の基端部(B)とで は,その下端縁(7)が同一平面上にあり,かつ,下り勾配も同一角度である。

 

【6】被告製品(イ号)の形状(別紙参考図面2記載のとおり)

 

【7】検討事項
[1]知財高裁の判断は、特許法第70条第2項にいう「明細書の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」に反しないか?
[2]知財高裁が下した判断は何に基づくものなのか?

 

【8】争点1-1   被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか
(「攪拌羽根の先端部を基端部に対して先行させた」(構成要件D)の解釈)
【8-1】原審
[1]原告(特許権者)の主張
先端部の前端縁が処理容器内側面と上記の角度βをなす必要はなく,先端部の外周と処理容器内側面との間に90度よりも大きな角度βが形成されれば本発明の①②の作用効果を奏するので良い。(原審7~8頁)
本発明の作用効果は①処理容器内側面の固着物を先端部の外周(※注:明細書では「外周面」又は「外周部分」と表現)で削り落とす、②回転の遠心力を受けて外周方向に移動する粉粒体を先端部で案内して上昇推進力を与え処理容器内側面に衝突しないようにする、の二つ。(原審7~8頁)
[2]被告の主張
明細書には請求項の構成により処理容器内側面 と先端部の前端縁との間の角度は当然90°より大きくなると説明されている。(原審8~9頁)
[3]裁判所の判断
「先端部」 が「基端部」の前端縁よりも前に出ており、「先端部」の前端縁の延長線と処理容器内側面の接線との 間の角度が90度よりも大きい構成を意味する(原審26頁)

 

【8-2】知財高裁
[1]控訴人(原告:特許権者)の主張
原審で先端部の「外周」と処理容器内側面との間の角度を問題にしていたところを、「外周面を含む攪拌羽根先端部の前面」に変更した。(高裁4頁中段)
攪拌羽根は,回転軸と直交する平面内で回転することで②の作用効果を奏するものであるから回転軸と直交する攪拌羽根の各断面で評価すべきものである。(高裁4頁下段)
回転軸と直交する攪拌羽根の各断面において,攪拌羽根先端部の前面が基端部の前面に対して回転方向に先行した構成を求めている。(高裁5頁上段)
[2]被控訴人(被告)の主張
控訴人の主張する構成は、明細書に全く記載がなく、「攪拌羽根の先端を内向けに屈曲させる」ことにより形成される構成であり,乙16公報,乙17公報,乙14公報及び本件カタログにみられる周知技術である。(高裁6頁中段)
本件特許発明と上記周知技術を比較すると,両者の相違点は,「攪拌羽根の先端部の前端縁が基端部の前端縁よりも回転方向に向かって前に出ている形状」だけである。(高裁6から7頁)
[3]裁判所の判断
  構成要件Dは, その文言上,攪拌羽根の先端部の回転方向前面が,基端部の回転方向前面 に対して回転方向に先行している構成のものであることを規定しているも のと解される。本件明細書の上記記載における「先端部の前端縁」との用語は,本件特許発明の内容をわかりやすく説明するために記載されているものであり、本件特許発明の構成を特定するものとして記載されているものではない。(高裁23頁上段~中段)

 

【9】争点1-2   本件特許は無効審判により無効にされるべきものかどうか
(控訴審のみ)
[1]控訴人(原告:特許権者)の主張
乙16・・・・・・攪拌造粒装置に適用し得るない。開示内容は本件特許発明の課題及びその解決手段と関連しない。
乙17・・・・・・上方突起6の内側面は上下方向にストレートで下り勾配は有していないので,粉粒体に対して上昇推進力を与える機能は有していない。
乙14・・・・・・跳ね上げ部30は,上方向に起立した形態で設けられており,本件明細書の図7の従来例の垂直部材12と同様で、粉粒体に上昇推進力を与える機能は有していない。
乙15(カタログ)・・・・・・跳ね上げ部は,本件明細書の図7の従来例や乙14と同様に粉粒体に対して上昇推進力を与える機能は有していない。(高裁5~6頁)
乙14~17は、いずれも本件特許発明の構成要件及び効果について開示も示唆もしていない。(高裁5頁中段)
[2]被控訴人(被告)の主張
  控訴人の主張とおりに解釈すると、本件特許発明は複数の攪拌造粒機の公知例で用いられている攪拌羽根(特に乙14,15,17)をそのまま包含することになり、本件特許発明は新規性を欠き,本件特許は無効とされるべきものである。(高裁8頁下段)
[3]裁判所の判断
乙14~17は,本件特許発明の構成要件Dの構成を開示するものではない(高裁26頁上段)
  乙16・・・・羽根片3の屈曲部4,拡大部5又は斜面6の少なくとも一部が,回転軸に近い部位である基端部よりも回転方向に先行している構成を採っているかどうかは判然としない。第1図ないし第3図を参照しても羽根片の形状を明確に把握することは困難であるばかりか,図によって羽根片3の形状が微妙に異なっているようにも見受けられるものであることにも照らすと,乙16公報の各図に示された羽根片3につき,その先端部の少なくとも一部が,その基端部に対して回転方向に先行していると認めることはできない。
乙17・・・・・・攪拌羽根5それ自体は厚みの薄い梯形断面を有し,径方向にストレート状に延在しているものにすぎないし,突起部6も攪拌羽根5に対して垂直に配置されているにすぎず,いずれも,その一部が,攪拌羽根5の基端部に対して回転方向に先行しているものとは認められない。
乙14・・・・・・回転混合翼10は直線状に伸びるもので基端部に対してその少なくとも一部が回転方向に先行する先端部を有するものではない。
乙15(カタログ)・・・・・攪拌羽根の先端が上方に折れ曲がっているものであって、先端部が基端部に対して先行しているものとは認められない。(高裁26~31頁)

 
【10】先行文献の記載

・・省略・・

 

【11】資料
●本件特許公報:特許第3164600号
●本件高裁判決:平成25年(ネ)第10007号
●本件地裁(原審)判決:平成23年(ワ)第2283号不正競争行為差止等請求事件
●乙14(実公昭62-7380号公報)
●乙16(実公昭41-3596号公報) 
●乙17(特開昭57-209633号公報) 
 (※注:乙15は高裁判決参照)

 

【12】コメント
本件特許の請求項の解釈で、一見すると簡単な文章であるのに、大阪地裁と知財高裁で全く異なる判断が出されたことには驚きでしたが、判断が分かれた特許権侵害に関する争点の部分は、判決文の中でボリュームも多くはなく、一読されてはいかがでしょうか。

標準規格必須特許の権利行使(平成25年(ネ)第10043号事件)について

                標準規格必須特許の権利行使(平成25年(ネ)第10043号事件)について

 

                                      
新たな技術が製品として市場に出て行くときにはその規格の統一が図られます。統一された方がメーカー間で公正な競争が図れ、ユーザーの選択肢も増し、互換性も担保されるなどのメリットがあるからです。

 

こうした統一された仕様となる技術標準を策定するために標準化団体が設立され、その標準化団体では、技術標準となる製品を製造するために必要な特許等の取扱いについて方針を定めています。

 

標準化団体ではパテントプールのように、技術標準となる製品の製造に必須な特許を全部まとめ、製品の製造者に一律に実施料を課す仕組みも取り得ますが、特許を有する企業毎に所有する必須特許数も異なるし、その数も変動し、そして何よりも個別のライセンス数が膨大になるためにその管理をすることがとても大変です。

 

そこで、ライセンス契約については当事者(必須特許を許諾する者と許諾を受ける者)間で行わせることを前提にする一方で、標準化技術を採用して製品を作り始めた者が特許権者から急に不合理な条件をつきつけられたりすることを防止するために、標準化技術を特許に持つ企業には、例えばFRAND条件での実施許諾に同意する義務を負わせる(FRAND宣言させる)ことなどがなされます。

 

即ち、FRAND宣言とは、公正、合理的かつ非差別的な条件(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory terms and conditions ; FRAND条件)で取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言であり、公正、合理的かつ非差別的ではない条件でのライセンス料を求められることが無くなり、製品の製造をする者は、安心してその製品の製造に取り組めるようになるのです。

 

【問題の所在】

このFRAND宣言をした特許について損害賠償請求権等の行使に制限があるかどうかについて問題になったのが平成25年(ネ)第10043号事件であり、より具体的には、第3世代携帯電話システムに準拠した製品を製造するアップルが第3世代携帯電話システムの標準化技術について特許を有するサムスンに対して、その特許に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた第1審があり、その控訴審が平成25年(ネ)代10043号事件です。

 

【判断】

損害賠償請求権の行使は、FRAND条件のライセンス料相当額を超える部分では認めない

 

∵①FRAND条件によるライセンスを受けられると信頼して標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し投資した者の合理的な信頼を損なう。

 

∵②必須宣言特許の保有者は、自らの意思でFRAND条件でのライセンスを行う旨を宣言し、幅広い潜在的なライセンシーを獲得できるので、FRAND条件を超えたライセンス料を許容することは過度な保護を与えることになる。

 

とした一方で、

 

FRAND条件でのライセンスを受ける意思がない等の特段の事情を特許権者が立証すればFRAND条件でのライセンス料相当額に限定される理由はない、としました。

 

【考察】

第1審判決では、特許権者、即ちサムスンの権利乱用だとして損害賠償が認められませんでした。当事者間の交渉の実情を検討した結果なのでその判断もやむを得ないのでしょうが、知財高裁では事件の国際性というか公共性というか、その辺りの事情も勘案し、FRAND宣言した特許権者に全く損害賠償が認められないというのは問題だと考えこうした結論となったように思われます。

 

それゆえ、結論は、原則と例外といったような場合分けがなされており、後に同様の他の事件が生じたとしてもこの判例の解釈を適用できるように考えられています。今回はライセンス料相当額に収まりましたが、特段の事情(厳格に解される)がある場合には、ライセンス料相当額を超えて損害賠償請求がなされる場合もありうることが担保されました。

 

 

お問い合わせ